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今年発売が予想される新薬から2023年の製薬業界を展望する|コラム:現場的にどうでしょう

更新日

黒坂宗久

今月6日、米FDA(食品医薬品局)がエーザイのアルツハイマー病治療薬レカネマブ(米国製品名・レケンビ)を迅速承認しました。新年早々飛び込んできたGOOD NEWSに幸先の良さを感じた人も多かったのではないでしょうか。私はというと、昨年末から家族が新型コロナに感染し、緊張の日々を過ごしていたのですが、7日朝にこのニュースに触れたときばかりは心が踊りました。

 

エーザイの内藤晴夫CEOは記者会見で収益見通しについて詳しく語らなかったそうですが、野次馬根性丸出しで弊社Evaluateのデータベースを叩いてみると、レカネマブは2028年に17.8億ドル(1ドル130円換算で約2300億円)を売り上げると予測されています。

 

この予測は、証券アナリストの予測の平均値として弊社が提供している「コンセンサス予測」というものなのですが、当然のことながら予測はさまざまなイベント(たとえばPhase3試験の結果や競合品の開発動向など)によって変動しますので、あくまでこの原稿を書いた1月中旬時点での予測ということになります。

 

レカネマブは9日にEU(欧州連合)で、16日には日本で承認申請を行いました。同薬への注目はまだまだ続きそうですが、ほかに今年発売が見込まれる大型新薬にはどんなものがあるのだろうかと気になり調べてみましたので、今回はそれを紹介することで2023年の製薬業界を展望することにしたいと思います。あくまで現時点で発売が見込まれるということなので、実際にはそうならない可能性もあります。広い心で見ていただけますと幸いです。

 

300を超える新薬が今年発売の見込み

弊社データで開発段階がPhase3以降(Phase3、Filled、Approved)にある薬剤のうち、世界初上市(First Global Launch〈WW〉)が「2023年」となっている新薬(New Molecular Entity〈NME〉)は337ありました。疾患領域別に見てみると、がんが最も多く、感染症、中枢神経系、免疫、心血管と続いています。モダリティ別では約半数が低分子医薬品で、抗体、タンパク質・ペプチド、遺伝子治療の順で多くなっています。全体像をざっくり見てみると、おおむね近年の新薬開発のトレンドに沿ったものとなっており、皆さんの想像にも近いのではないでしょうか。

 

【2023年に発売が予想される新薬】▼疾患領域別/Oncology/32|Systemic/Anti-infectives/14.8|CentralNervous/System/13.8|Immunomodulators/6.4|Cardiovascular/6.1|Blood/5.4|Sensory/Organs/5.4|Dermatology/3.7|Endocrine/3.4|Genito-Urinary/3.4|Gastro-Intestinal/2|Musculoskeletal/2|Respiratory/1.7|▼モダリティ別|Smallmoleculechemistry/178|Monoclonal/antibody/61|Vaccine/28|Protein/&/peptide/therapeutics/23|Gene/therapy/18|Cell/therapy/10|DNA/&/RNA/therapeutics/9|Gene-Modified/Cell/Therapy/4|Genome/Editing/1|Other/5

 

この337の新薬候補のうち、売り上げ予測が出ているものは188あります。この中で2028年にブロックバスターになっていると予想されているのは31で、上位20製品を並べたのが下の表です。

 

【今年発売予想の新薬/28年売り上げ予測上位20品目】<2028年売上予測(m$)/品名/主な開発企業/モダリディ/疾患領域>2567.4/ntravitreal/Pegcetacoplan|Apellis/タンパク質・ペプチド/感覚器|2222.7/SRP-9001/Sarepta/Roche/遺伝子治療/筋骨格|2210.2/KrazatiMiati/Zai/lab/低分子/がん|2197.2/ANAVEX/2-73|Anavex/低分子/中枢神経|2173.2/CNM-Au8/Clene/低分子/中枢神経|2170.0/Datopotamab/Deruxtecan|Daiichi/Sankyo/AZ/抗体/がん|1872.5/Donanemab/Lilly/抗体/中枢神経|1831.4/MultiStem/Athersys/細胞治療/中枢神経|1778.7/BAN2401/Eisai/Biogen/抗体/中枢神経|1703.5/Tecvayli/J&J/抗体/がん|1602.5/Sunlenca/Gilead/低分子/中枢神経|1462.7/Nipocalimab/J&J/抗体/血液|1455.8/Lebrikizumab/Eli/Lilly/Almirall/抗体/免疫|1454.2/Zynquista/Lexicon/低分子/内分泌|1420.2/Roctavian/BioMarin/遺伝子治療/血液|1361.5/Relyvrio/Amylyx/低分子/中枢神経|1333.3/Revascor/Mesoblast/細胞治療/心血管|1323.0/Zimura/IVERIC/bio/核酸医薬/感覚器|1318.8/Zuranolone/Biogen/SAGE/Shionogi/低分子/中枢神経|1234.9/Mirikizumab/Lilly/抗体/皮膚|※出所:Evaluate/Pharma®/2023年1月

 

表を眺めてみると、今年発売が予想される新薬全体では3番手だった中枢神経系の医薬品が、こちらでは7品目で最も多くなっています。レカネマブは9位に入っていますが、アルツハイマー病治療薬では米イーライリリーのドナネマブが7位と、こちらのほうが期待値としては高いという結果になりました。ただ、ドナネマブはつい先日、米国で迅速承認が見送られました。今回お示した予測はFDAの判断が明らかになる前のもので、迅速承認見送りを受けて今後、見直されることになるでしょう。リリーは実施中のP3試験のデータをもとに今年半ばに申請する方針で、発売は来年に持ち越しとなりそうです。

 

売り上げ予測が最も大きいIntravitreal Pegcetacoplan(米Apellis Pharmaceuticals)は、硝子体内投与のPEG化合成ペプチドの補体C3阻害薬で、ドライ型(地図状委縮)加齢黄斑変性を対象とした医薬品です。今のところFDAに承認された治療薬は存在しないことから注目されていますが、PDUFA(審査終了目標日)が昨年11月から3カ月延期されており、大型化が期待されるだけに決定が気になります。18位には、この薬剤のライバルである補体C5に対する核酸医薬(RNAアプタマー)のZimura (Avacincaptad Pegol、IVERIC bio)もランクインしています。同薬は昨年12月にFDAへの段階的承認申請を完了し、Apellis社を追いかける形となっています。

 

ブロックバスター候補に2つの遺伝子治療

個人的に注目している遺伝子治療薬では、米Sarepta Therapeuticsの「SRP-9001」(対象疾患・デュシェンヌ型筋ジストロフィー)と、米BioMarin PharmaceuticalのRoctavian(重症血友病A)がランクインしていました。遺伝子治療薬についてはネガティブなニュースも多いと感じている人もいると思いますが、この治療法が世の中に出ることの意義は非常に大きいと思っており、私としては開発の動向を祈るように見守っています。承認・発売のニュースを受け取るのを楽しみに待ちたいと思います。

 

今年発売が予想される新薬は数多くありますが、最後の最後までどうなるかわからないのが新薬開発です。どの新薬も良い結果になることを心から願っています。

 

年末年始に家族が新型コロナに感染し、医薬品のありがたみを痛感しました。この業界で働く皆さん一人ひとりにとって、今年が良い1年となりますように。

 

※コラムの内容は個人の見解であり、所属企業を代表するものではありません。

 

黒坂宗久(くろさか・むねひさ)Ph.D.。Evaluate Japan/Consulting & Analytics/Senior Manager, APAC。免疫学の分野で博士号を取得後、米国国立がん研究所(NCI)や独立行政法人産業技術総合研究所、国内製薬企業で約10年間、研究に従事。現在はデータコンサルタントとして、主に製薬企業に対して戦略策定や事業性評価に必要なビジネス分析(マーケット情報、売上予測、NPV、成功確率や開発コストなど)を提供。Evaluate JapanのTwitterの「中の人」でもあり、個人でもSNSなどを通じて積極的に発信を行っている。
Twitter:@munehisa_k
note:https://note.com/kurosakalibrary

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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